| 第一話 | 第二話第三話 | 第四話第五話 | 第六話 | 第七話第八話 | 第九話 | 第十話結び |


美味しい日本酒のお話

第三話 熟成 (その一


 お客様から、「酒は、どのくらいの期間なら品質を保てるのか」とよく尋ねられます。
また、「酒をずっと置いておくと酢になる」、「早く飲まなければ酒が腐る」と心配している方もいらっしゃることでしょう。
あまり知られていないことですが、実は、日本酒に賞味期限はありません。
生酒や生詰めの酒以外の商品は、瓶詰め時に火入れという加熱殺菌(牛乳などで言うところの「低温殺菌」)をしてあります。
つまり、きちんと処理されていれば無菌状態です。酢になったり、腐ったりというのは酢酸菌や乳酸菌の仕業なので、開栓しない限り、まず安心です。
また生酒についても、冷蔵さえしておけば、何ヶ月か程度でおかしくなる可能性は非常に低い、と思っていただいて結構です(ただし、最近流行の、度数が低い(=十五度未満)商品は要注意!)。

 さて、日本酒が方向を誤ってきた点はいくつもありますが、その一つが熟成についてです。
本来、酒を「造る」工程には「熟成」も含まれているはずなのですが、特に生酒が商品化されてからというもの、フレッシュさばかりが重視され、熟成は軽んじられるようになりました。

 酒の審査や品評会などにおいても、「老香(ひねか=熟成が進むにしたがって出てくる特有の香り)」は欠点として指摘され、「古い」イコール「良くない」というイメージが定着しています。

 しかし、世界中のどんな酒でも、熟成タイプほど珍重され、高級な扱いを受けます。
ウイスキーやブランデーなど、蒸留酒のラベルに「**years old」などと誇らしく書いてあるのは、みなさんもよくご存知でしょう。
醸造酒においても、ワインは言わずもがな、ビールでさえ、イギリスのエールやスタウト、ベルギーのトラピストビールなどには、何年も寝かせるタイプもありますし、お隣の中国には、その名も「老酒(ラオチュウ)」という酒があり、古さに価値が置かれています。

 熟成している酒の中では、さまざまな化学・物理反応が実にゆっくりと進んでいます。
その現象についてはかなり研究されていますが、解明しきれない部分もまだまだ残されています。
酒とは、それほど複雑な、まさに“生きもの”なのです。

  一般的には、熟成させると、当然ながらフレッシュさは失われる反面、味の角が取れ、まろやかになります。また、旨味も乗ってきて、味に奥行きと幅を感じられるようになります。色は濃くなり、熟成香や老香が出てきますが、これは好みの分かれるところです。
どんな酒にも共通して言えることですけれど、寝かせた酒の味がまろやかになるのは、時間をかけて熟成する間に、酒の中のアルコールが、水など他の成分と結合することによって、刺激が少なくなるからです。それは、体内への吸収もゆっくりで、酔い心地もおだやかになりやすいということです。
つまり熟成酒は、より身体にやさしい酒だとも言えましょう。

実は、日本酒にも長い年月(五年〜三十年)熟成させた古酒はあり、積極的にそういう酒ばかり商品化している蔵もあります。しかし、世間での古酒の認知度はまだかなり低く、それに比例してか、熟成についての理解が広まっているとは言い難いのが現状です。
そんな風潮から、“酒は、新しければ新しいほど良い”という誤解が生じているのかもしれません。

 古酒までいかなくても、何ヶ月か寝かせるだけで酒の味は変わります。
昔は、冬に仕込み、春に搾った新酒を桶に囲って封印し、夏を越すまでは寝かせました。
ひと夏越して酒が旨くなることを「秋上がり」と言いますが、杜氏は「秋上がり」を目標に酒を造っていたのです。このように、熟成によって味が深まり、それを季節感とともに味わえるのも、日本酒ならではの楽しみです。

 確かに、搾りたての新鮮な酒にも捨て難い魅力があります。
しかし、「新酒を味わうだけでは、本当の酒の味を知ったことにはならない」と言っても差し支えないでしょう。
熟成した酒の深い味わいこそは、若い酒には持ち得ない、酒本来の醍醐味だと思います。
少し女性には失礼ですけど、古来「酒は古酒、女は年増」という言葉があるくらいです。
この場合の古酒とは、何年も寝かせたものではなく、夏を越した酒のことですが、昔の人には、熟成の重要性がよくわかっていたのではないでしょうか。
女性のことはともかく、酒が熟成することによって真価を発揮するという意味では、現代にも通じる言葉だと思います。

 次回(第四話)も、もう少し酒の熟成についてのお話を続けます。
竹鶴酒造 杜氏 石川達也
 



前のページに戻る


第四話
「熟成(その2)」

 
 美味しい日本酒の話のペジへ
トップページへ
〒464-0004 名古屋市千種区京命1-8-7 
TEL  052-771-1605 FAX 052-771-1670

Copyright (C) happy-breeze.com All Rights Reserved