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美味しい日本酒のお話 

第九話 日本酒を楽しむのに、知識は不要です。


「酒は酒」で、ええじゃないか

 少し前までは、“酒は酒”でした。ところが最近では、酒の種類だけでも、吟醸酒だの、純米酒だの、本醸造酒だの、生酒だのといった種類があり、それがまた、特別純米酒だの、特別本醸造酒だのと細分化され、飲む人にとっては訳がわからない状態になっています。

 それぞれの種類の定義も面倒くさいもので、酒業界人でさえ、覚えきれないほどです。それらを解説する本もたくさん出ています。しかし、ごく普通に酒を楽しみたい人は、勉強してまで酒を飲みたいと思わないのではないでしょうか。
 細かく分類していったのには、商売上の理由もあります。販売戦略のひとつとして、「差別化」という言葉がよく使われます。
つまり、他社製品(あるいは自社製品)との違いをハッキリさせることによって売りやすくしようとするものです。多種多様な定義づけは、差別化する上では好都合でした。
でもそれは、売る側にとって都合がよいだけで、買って飲む人には混乱の種でしかないように思います。
 このように酒がとっつきにくい存在になってしまったのは、わが酒業界の責任でしょう。
酒を身近に感じていただくためにも、「酒は酒」というあり方に戻るべきではないかと、個人的には考えております。

”頭“で酒を 飲むことなかれ

 とはいえ、細かな知識や情報を楽しむ人もいらっしゃいます。確かに、知識や情報を楽しむことで興味が深まれば、酒に親しみもわくことでしょう。ですから、酒に関心を持ってくださり、喜んで勉強までされる人は、私たちにとってはありがたい存在です。
ただ、気をつけていただきたいのは、知識や情報はときに、酒そのものを素直に楽しむ邪魔にもなりやすいということです。
知識や情報を豊富に蓄えた上で、なお、それらに左右されずに酒に接することは至難の業です。
酒に限りませんけれど、知識や情報があると、どうしても先入観というものを持ってしまいがちです。
そうなると、酒を頭で飲むようになります。酒を頭で飲むということは、実は、酒を楽しんでいるのではなく、酒の知識や情報を楽しんでいるにすぎないのです。

 “頭で”酒を見るのは、何も飲み手ばかりではありません。
私たちのような造り手や売り手もまた、頭で酒を造ったり、酒を売ったりしてしまっていることが往々にしてあります。

 今までお話してきたこのコラムは、巷間で言われるお酒の常識が実は「間違いだらけ」である事を認識していただきたいと言う思いから書いており、あれこれ言われている「お酒の常識」も、そういう知識や情報に左右された所から生まれたものだと感じているからです。

「酒は生きもの」という言葉は、この連載でも何度か使ってきました。
生きものを相手にして、とことん付き合おうとするとき、知識や情報に頼っているようでは限界があります。その点では、人間同士の付き合いと同じではないでしょうか。
私にも、一般的な理論を鵜呑みにしたり、データばかりを重視したりという時期がありました。
その当時、自覚はありませんでしたが、今思えば、頭で酒を造ろうとしていたのです。
現在でも、酒に真っ直ぐに向かい合う以前に、先入観にとらわれていることに気づくことがあり(気づいていないことも多いはずですが)、まだまだだなと反省を繰り返す毎日です。

酒は人の上に人をつくらず

 酒は楽しむものであって、分析するものではありません。知識があってもなくても、感覚が鋭くても少々鈍くても、酒を飲んで楽しむ上では、誰しも平等です。また、酒を“わかる”ことと、知識の量や感覚の鋭敏さも、まず関係ないとお考えいただいて結構です。

 それに、別に酒のことなんかわからなくてもいいのです。逆に考えると、酒のことをすべてわかっているという人は、古今東西いやしません。
私たちが日々酒に接し、酒のことをどれだけ考え続けていても、わからないことのほうがはるかに多いほど、酒の世界は奥深いのです。
自戒を込めて言えば、酒に関わる仕事をしているからといって、わかったような気になるのはこわいことですね。
 みなさんには、酒を前にして構えてもらう必要などありません。酒を楽しむ上で、酒の奥深さがどうのといった話は無用ですから。またまた“ごはん”にたとえますが、ごはんを食べるとき、米のデータや自分の味覚の鋭さなんて気にする人は、ほとんどいないはずです。
自分が食べて、「美味しい」と感じるかどうかだけでしょう。
酒も、飲んで美味しければ、専門用語など持ち出さなくても、「旨い!」のひと言で充分です。
酒にとっては、自然に素直に味わってくださり、楽しい時間を過ごされたのなら、それで本望なのです。

 さて次回は、アルコール度数の高さについて検討してみましょう。
竹鶴酒造 杜氏 石川達也




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「度数の高さが日本酒の欠点?」

 
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